たまごビル健康講座                       平成23年10月8日

                                    別府先生が作られたプレゼンテーション 
  医者が薬を疑う時  
                     正しい治療と薬の情報 編集長 
                     ディペックス:ジャパン 理事長 
                            別府 宏圀 先生 
    
 別府先生が医者になりたての頃、薬害であるスモン病が発生しました。日本で1万人を超える患者が出た大変な薬害事件でした。この事件から別府先生は薬にのめりこむようになりました。この様な大規模な薬害では、訴訟に至らなければ解決しない事を知りました。

 医聖と呼ばれるヒポクラテスの誓いに、「なによりも、まず、害を与えてはならない」と有ります。しかし、医療による被害は必ず発生します。そして、意外に多いのが薬の副作用です。英国の例では、日常外来患者の約2%、入院患者の約5%が副作用で治療を受けており、約10%が副作用を経験しています。

 なぜ、薬の副作用が発見されにくいのでしょうか。これには、「3倍の法則」が有ります。治験などをしている場合、発生比の3倍ほど調査しないと症状が発見できないとされています。なかなか見つからないのです。従って新薬などは、慎重に経過をみる事が大切になってきます。

 薬害を防ぐには、社会の制度をしっかり作り、システムを正しく運用し、見落としが無いようにしていくことが大切です。薬の利用者である患者さん自身が、慎重に、科学的に正しく判断し、問題が有れば直ちに報告していく姿勢が大切です。

【これまでの主要な薬害事件】

(1) サリドマイド
世界規模で発生した初の大型薬害。抗てんかん薬として作られたが、催眠性が認められたため、睡眠薬として発売され様々な薬に多用された。安全な睡眠薬と宣伝されたため、妊婦のつわりや不眠症に多用された。その後、従来あまり見かけない手足が極端に未発達な奇形児が見られるようになった。
1961年11月サリドマイド服薬との関連性が指摘されたが、日本では1962年5月まで販売され、回収は63年までずれ込んだ。日本の患者数は発売元のドイツの次、2番目に多い。
日本は、薬害でも安全な国では無かった。


        

         サリドマイド服薬との関連性を指摘した ドイツ レンツ博士(左)
         ケルシー氏がメレル社からの申請を受理せず、アメリカの被害をくいとめた(中央)

 
(2) スモン病
1955年頃から、日本各地に下痢などの腹部症状に続き、下肢のしびれ、運動障害、視力障害などを起こす奇病が多発した。原因がキノホルムによる薬害と分かるまで10年以上を要した。キノホルムは良く効く下痢止めとして多用された。服用すると、しばらくして強い腹痛になり、再びキノホルムを服用する事で、ますます症状を重くした。その後、下肢のしびれや、視覚障害が出てきます。原因が分かっても、治療法が無く、重大な薬害です。


 (3) ソリブジン事件
帯状疱疹の治療薬ソリブジンで、発売後1カ月余りのうちに、15人が死亡した。
FU系抗がん剤と併用すると、相互作用が起こり、FUの血中濃度が10倍以上に上昇し
骨髄障害で死亡した。治験中にも3人死亡しており、医薬品の安全性、治験や医薬品情報のあり方が問題になり、薬の相互作用が重要視されるようになった。

 
(4) 薬害イレッサ
 非小細胞肺ガンを直接攻撃する画期的な治療薬として開発されました。製薬会社の宣伝や、マスコミの報道、世論の待望論などで、異例の迅速承認審査が行われました。しかし、発売後3カ月で間質性肺炎・急性肺障害で死亡する患者が多発し、緊急安全性情報が出されたが、その後も副作用被害者の数は増加し続けた。その後に発表された臨床試験の結果は、イレッサの延命効果に否定的であり、新薬の承認審査制度に疑問が指摘された。

       

【イレッサへの各国の対応:日本と欧米の違い】
   EU:承認せず
   米国:一旦は承認したが、新規患者への投与は行わない
   日本:使用を継続

【イレッサ薬害から何を考えるか】
  画期的な新薬、夢の薬などの華々しい宣伝に惑わされない事。
 健全な懐疑心を持って、慎重に、正しい手順で薬を評価する。


        
(5) ジエチルスチルベストロール(DES)
 20世紀最大の薬害:世代を超えた被害を与えた合成女性ホルモン剤。更年期障害などの薬として販売されたが、月経異常・つわり・不妊症などでも使われ、妊婦への使用も認められた。妊娠した母親がDESを使用した場合、子供の生殖器の構造的障害や、女性の膣ガンなどが発生した。母親が使用した事で、多くの成人した子供が被害を受けたという、耐えられない薬害。


(6) SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬・抗うつ剤)
抗うつ剤をやめようとすると、頭の中に“電気ショック”のような感覚が起こる。しかし、医師には分からなかった。患者がインターネットなどで連絡しあい、症状が確認された。
   
 
       


まとめ
  基本的には、薬は使い過ぎると副作用の心配がある。
  身体の調子を見ながら、つらい時だけ使用すれば良い。
  薬を開発する場合、患者の臨床試験への参画が必要。
  売れる薬を作るのではなく、本当に必要な薬を開発しなければならない。
   患者が語る事で、医療を変えていく事が大切。

 
     配布資料
      10月度 たまごビル健康講座         2011,10,8

   演題 : 医者が薬を疑うとき


        講師 TIP「正しい治療と薬の情報」誌編集長  別府 宏圀先生
            DIPEX理事長

  1.医療被害:副作用,有害反応,医原病,薬害,医療過誤…それぞれの言葉の意味

  2.副作用は意外に多い

  3.許せる副作用,許されない副作用/予測できる副作用,予測困難な副作用

  4.副作用を見つけるには:3倍の法則

  5.これまでの主要な薬害事件
       サリドマイド,スモン,ソリブジン,イレッサ,
       DES(ジエチルスチルべストロール),SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)

  6.薬害の教訓

  7.医療経済と薬害

  8.DTC広告(対消費者直接広告)

  9.薬害を防ぐには

  10.患者の臨床試験への参画

  11.個別的医療被害・医療事故をどう防ぐか

  12.患者の語りが医療を変える


別府先生が作られたプレゼンテーション ファイル