たまごビル 健康で生きる力をつける講座                 平成30年4月14日

          放射能災害から「いのち」を守る
         風評被害をのりこえて

             
       
        講師 福島大学名誉教授 
                   清水 修二 先生
 【泉大津市立病院 副院長 四方 伸明 先生】

 4月は、いつもは私が医学関係の講座をしていますが、今日は福島大学、経済学部名誉教授の清水修二先生から「放射能災害から「いのち」を守る。風評被害をのりこえて」という話をしていただきます。
清水さんは、私の義理の兄にあたります。










  
 【たまごビル院長 石垣 邦彦 先生】
 
 今年も東日本大震災チャリティたまご会を催すことになりました。
今年で8回目です。
毎年1000個の餅を福島県立医科大学に送らしていただいています。
  今年は、清水先生が、風評被害について、何とかならないものかと、ご自分が体験されたことをお話していただきます。
  先生は、経済学と原発について研究されていて、東日本大震災の前に何度もチェルノブイリにもいかれています。
  今日は、八尾市長の田中誠太先生や府会議員、市会議員の先生にお越しいただいて、八尾市の安全についても質疑していただきます。






   
  【福島大学名誉教授 清水 修二 先生】
自己紹介

1948年東京都台東区生まれ。京都大学で学ぶ
1980年から福島大学経済学部(地方財政論担当)
  評議員、学部長、副学長などを経て2014年退職。
  現在非常勤講師 財政学のテーマとして
  「地域と原子力」を研究 チェルノブイリ事故被災地の
  調査5回(1991、2011、2012、2013)
原発関連主著
  1994 『差別としての原子力』 (単)リベルタ出版
  1998 『動燃・核燃・2000年』 (編)清水・舘野・野口編、リベルタ出版
  1999 『NIMBYシンドローム考』 (単)東京新聞出版局
  2000 『臨界被曝の衝撃』 (共)清水・野口、リベルタ出版
  2011 『原発になお地域の未来を託せるか』 (単)自治体研究社
  2011 『原発を終わらせる』 (共)岩波新書 
  2012 『原発とは結局なんだったのか-いま福島で生きる意味』 (単)東京新聞
  2013 『福島再生-その希望と可能性』 (共)かもがわ出版
  2013 『東北 発 災害復興学入門』 (編)山形大学出版会
  2014 『放射線被曝の理科・社会』 (共)かもがわ出版
  2018 『しあわせになるための「福島差別」論』 (共)かもがわ出版 

私は経済学が専門です。経済学が専門でありながら、原子力発電関連でいろいろと書いたり話したりしてきました。チェルノブイリの被災地には調査で5回行ったことがあります。
 
     
環境負荷の多段階転移

 なぜ、私が原子力の問題にかかわっているのか説明します。
例えば大阪でたくさん電気を使います。ところが電気を作る原子力発電所は福井にあります。
福井で原子力発電所を動かすと、使用済み核燃料が出ます。使用済み核料は青森へもっていきます。
青森で再処理をしますと、高レベルの廃棄物ができます。これはまだ決まっていませんが、将来的にはどこかの無人島や、北海道の端っこの所などへもっていくのではないかと思われます。
放射能は濃度を高めながら、大消費地から遠くへ遠くへと移動していきます。
放射能は、だんだん貧しいところへ、移動していく。環境負荷の多段階転移です。
  
非常に理不尽なことです。押し付けられる田舎では、あまり電気を使いませんから。
このような理不尽な仕組みを可能にする仕組みが作られました。1974年に電源三法(電源開発促進税法・特別会計に関する法律・発電用施設周辺地域整備法)という法律が作られました。
電源開発促進税という税金を作りました。この税金は電気会社が国税庁に収めるわけですが、それは電気料金です。しかし、この税金は発電原価に含まれますので、請求書・領収書など表には出てこないので、一般には知られていないお金です。
このお金が、原発を受け入れた地方自治体などに公布されます。何十億、何百億と公布されます。
毎年3000億円ほどの税金です。田舎に対する環境負荷対策です。
こういうことが、本当に良いのか、研究しています。  

     
 
 原発災害では、情報が大切で、実際にはどうなっているのかわからない。そこで、政府を信頼できるか、できないかで変わってきます。また、これから後でどんなことが起こってくるかわからない。
そのような心理的圧迫が続くことになります。知識があれば冷静に対応できますが、むつかしいことです。


被害の見方の差が住民の中に分断・対立を持ち込んだ 

事故後福島大学は閉鎖されました。授業再開は、不安定な状況なので意見が対立しました。
しかし、5000人の学生を留年させないよう授業を再開しました。
事故当時、春休みだったので出勤しない教官が多数いました。しかし、事務職員は全員出勤していました。組織の帰属意識の違いで、対立が起こりました。
家族や職場でも避難する人や、残った人などで、分断や対立が起こりました。
非常にむつかしい問題が起こりました。
「何もなければそれが何より」だが 「何もなかった、で済まされるのは許せない」
「風評です買ってください」 vs. 「実害だ、賠償しろ」

 
 チェルノブイリは社会主義国なので、住民は国有地に住んでおり、別の国有地に移転させることができますが、福島では個人の所有地です。また、どこかで線引きをしないといけないので、道一本の距離で賠償の有る無しが決まる矛盾が出ます。
自主避難した人をどうするかも問題になっています。

 
 放射能を拡散させるな → 出たところに? → 電気を使っている所はどこか
福島から出てきた放射能は福島に戻せ? (処分は認めるがうちのそばには御免)
中間所蔵施設は、「どうせ空手形」= 法律に書いてあることが守られない国 ?

     
 
 原発に賛成か反対かという事で判断されるようになり、科学的に正しいか、正しくないかではなく、
反対・賛成の都合で批判されるようになったのです。
たとえ科学的に正しくても、政府に有利な場合、御用学者のレッテルが張られます。


      
「遺伝への懸念」がもたらす悲劇 清水(福島民報2013.8.17)  (一部抜粋)

 放射能災害の健康への影響を調べる県民健康管理調査については、甲状腺がんばかりが問題になっているが、ある意味でもっと深刻なのは、遺伝的な影響を心配する県民意識の現状である。
6月の検討委員会で公表された「こころの健康度」調査結果によれば、避難区域住民を中心とした21万人あまりの成人へのアンケート調査で、
「現在の放射線被ばくで、次世代以降の人への健康影響がどれくらい起こると思いますか」
の問いに、実に34.9%が「可能性は非常に高い」と答えている。やや高いと答えた人を加えれば60.2%だ。
6割が被ばくの影響が遺伝すると考えている。これは大変なことである。

広島・長崎の被爆者の健康調査で、
被ばくによる遺伝的な障害は確認されないという結論が出ている。チェルノブイリ事故の被災地でも、先天異常の発生率は汚染地域と他地域とで差がないと公式に報告されている。

まして、福島事故での住民の被ばく量はチェルノブイリと比べれば遙かに少ないのである。
また「妊産婦に関する調査」の結果も報告された。

  「次回妊娠・出産をお考えですか」
との質問に「いいえ」と答えた人の14.6%(複数回答あり)が「放射線の影響が心配なため」という理由に印を付けている。およそ7人に1人が遺伝的影響を恐れて子どもをもつことをためらっているということだ。

被災者である県民自身が遺伝的影響の存在を深く信じている
ようだと、「福島の者とは結婚するな」と言われても全く反論できないし、子どもたち自身から「私たち結婚できないの」と問われて、はっきり否定することもできない。親子ともども一生、打ちのめされたような気持ちで生きなければならないとしたら、これほどの不幸はあるまい。

広島・長崎の被爆者の健康調査で、被ばくによる遺伝的な障害は確認されないという結論が出ている。


原爆被爆者たちが歩んだのと全く同じ苦難の道を、福島県民は歩まされるのだろうか。明確な根拠もなく遺伝的な影響を口にする世の「識者」たちは、自らの言動のもつ重い影響と責任を、自覚しているのだろうか。
 広島・長崎やチェルノブイリ事故の貴重な経験が、ここ福島で全く生かされていないと言わざるをえない。
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この記事が掲載された後、科学的に正しいか、正しくないかではなく、政治的に、有利不利で批判されました。原発反対に都合の悪い意見には、御用学者のレッテルが張られます。

 
 
 
 福島では原発による避難が長引いたため関連死が多く、長期間減りませんでした。
避難場所が何か所も変わり、負担が大きかったのです。いち早く避難するのが良いとは限りません。
情報を把握したうえで行動しないと負担ばかり増えて関連死が増えてしまいます。

     
    
      
 大熊町は車で通過できますが、単車は入れないのです。車で止まって出ることもできません。
富岡町の下側写真左では、道路の右側だけが入れません。
 
 健康調査などは、政府が御用学者を使って都合の良いようにしていると批判する人がいますが、最初から結論があって批判しています。まじめにやっている調査は、科学的な見方が必要です。
甲状腺にばかり注目するのではなく、関連死なども重要です。
 
 チェルノブイリでは、建物が完全に破壊され、10日間にわたる火災で放射性物質が拡散しました。
福島は、建物の上部が水素爆発で吹っ飛んだだけで、格納容器はメルトダウンしているが、残っています。放射性物質は完全に拡散したのではなく、チェルノブイリと比べると、はるかに少ないのです。

   
    
 ベラルーシでは、情報が伝わらず、汚染された草を食べて汚染された牛から出た汚染されたミルクが飲まれ、30000人を超える子供が1000ミリシーベルト(1Gy)以上の放射線の被爆を受けた結果、4~5000人の子供が甲状腺がんになった。
福島では、最大に見積もっても数百分の1程度であり、全くないとは言い切れないが、影響は非常に少ないと言えます。
 
 子供の甲状腺がんは非常に珍しいガンで、100万人に1人か2人(年間)と言われています。ところが今回の調査で100人~200人にガンが見つかったのです。
「明らかに異常事態で、被爆の影響」という人もいます。しかし、従来は、なにか異変があり、診療した人の数で、今回は30万人の何の症状も無い人を調査しています。
普段なら見つからないものを見つけている、しかも生死にかかわりのないガンまで見つけてしまっている可能性があります。
甲状腺ガンは比較的生死に関係が低いガンです。早期発見、早期治療といわれますが、手術をすれば、薬を飲み続けなければなりません。精神的にもダメージを受けます。見つからなければ、生死にはかかわらず、死ぬまでそのままの場合もあります。
このことから、過剰診断の疑いが出てきます。強制的に全ての人を診断するのではなく、希望者を検査すればいいのですが、今度はデータが不満足となり、はっきりとした結果が出てきません。
清水先生は、3回ほどまでで、調査をするかしないかを話し合うことを提案していますが、4回目の調査も決まっています。
 
 
 探しても見つからないほどの小さなリスクであれば、無視してよいのではないか。いつまでもこだわり続けることが良いことなのか。
広島や長崎の被爆者が味わった苦しみ。伝染や遺伝はしないのに受け続けた差別や偏見を、また福島の人々が受けるようなことは、良いことではありません。みんなが幸せに生きていけるような考え方が必要です。

 【質疑応答】

【質問1】八尾市長 田中誠太 先生
 放射線被害はむつかしいことを感じ取ったところです。災害が起こった時に市長がすべき17カ条をパソコンのデスクトップに置いています。災害時には協力し合うコミュニティが必要です。災害を防ぐには、オオカミ少年にならざるを得ないと思います。危険がせまったら避難をしてくださいと伝え、起こらなかったら良かったと思えるように、また、被害があったときは、避難して良かったと思えるようにしていきたいです。質問は、災害時の行政のトップとしての判断と、市民の行動をどうするのが良いのでしょうか?

清水先生
 行政に信頼があるかどうかが、災害時に大切です。
政府に信頼がなかったことで、混乱が起こりました。

八尾市長 田中誠太 先生
 市民に適切に情報を提供し、マスコミにも情報を提供し、信頼を高めるようにしています。
 
 
【質問2】市立東大阪医療センター 院長  辻井正彦 先生

 経済学者として原発に賛成なのか、反対なのかご意見を聞かせてほしいです。
清水先生
 原子力発電は、完成しているわけではない。だから稼働中の原発を見直す必要があると思っていました。
しかし実際に事故が起こってみると、被害の甚大さから、やめたほうが良いと思っています。

市立東大阪医療センター 院長  辻井正彦 先生
 私は原発には反対ですが、父から、日本の国力のため原発は必要との意見を聞き迷っています。

清水先生
 経済学としての原発批判は、最初に話したように、経済的な利益を農村に与え、その代わり、リスクを農村に押し付けるのは、よいやり方ではないという事からです。

市立東大阪医療センター 院長 辻井正彦 先生
 韓国では女性のガンが増えていますが、しかし死亡率は上がっていない。
これは検査を受ける人が増加したのでガンの発見が増えているだけです。
福島でも、なんの症状もない全ての子供の検診をした結果、患者数が増えているのであれば、まったく別の地方で同じように検診をすれば、結果が分かると思います。

清水先生
 検査の結果を高めようとすれば、過剰診断になり、莫大な被害者が出てしまう。
甲状腺ガンが見つかっても、生命に問題なければ経過観察でよいのではないかと思います。
しかし、ガンと診断されたら、治療しなくてよいのかという疑問が出て、必要ないのに手術することがあれば、過剰診断になります。非常にむつかしい問題です。

  

【質問3】八尾市消防署 副署長 丸尾京弘 様
 福島へは八尾市からも隊員を派遣しておりました。
震災後5年後に聞いた話では、子供が普段外へ出て遊ぶことができないということでした。現在の状況を教えてください。

清水先生
 今はそのような状況はなくなりました。ただ、気にする人は外へ出ないこともあります。そういう意識はまだあります。
一番納得できるのは、実際に放射線の量を測ってみることです。かなり低くなっているので、学校でも問題ないとしています。
福島からの情報が、更新されないまま残っているのが問題です。実際に福島に行くと、普通に暮らしているので、驚かれるようなことが実際にあります。

八尾市消防署 副署長 丸尾京弘 様
放射線被害に対して新しい対策などはありますか。

清水先生
 チェルノブイリから農業に関する技術を得ています。30年にわたる経験から、農地の放射線の測定や土地の改良で大きな成果を上げました。世界に誇れる実績です。
しかし、放射能は厄介なものです。

 
 
 
泉大津市立病院 副院長 四方 伸明 先生
 放射線被曝による遺伝的な風評被害が良くあります。
被爆したからと言って、子供に遺伝することは無いとわかっています。福島で生まれた子供たちが、将来結婚をためらうなど、あってはなりません。

 原爆の悲惨さを伝えるため、ドラマや映画でも取り上げられることがありますが、福島の人たちを苦しませるような、間違った知識にならないようにしてほしいものです。善意でやっていることが、人々を傷つけることが無いようにと思います。